死ぬまで海外ドラマ(死ぬ海)

アメリカ、イギリス、中国と欧州各国のドラマ。

"アメリカ"の全て ~『逃亡者』(1963)  




『逃亡者』S1 (FOXクラシック) (Wiki)

内容

妻殺しの濡れ衣を着せられて、死刑宣告を受けた男、"リチャード・キンブル"が護送中に逃亡を図り、警察の追跡をかわしながら真犯人を捜し逃亡し続けるというサスペンスヒューマンドラマ。(公式より)



感想・分析

"アメリカ映画"の全て

・古い作品ということで若干高を括って、冒頭数話だけ見たタイミングで一回書いたんですが、1シーズン30話フルに見てみて良好だった第一印象を更に遥かに越えた優れた作品だったので、改めて全面書き直しです。(笑)
「逃亡死刑囚が広大なアメリカ各地を転々とし、追跡をかわしながら隙を見て真犯人探しにも執念を燃やす」という、"サスペンス"ないし"ロード・ムービー的サスペンス"としてのフォーマットががっちりと組まれていて。
・それだけでもある意味「傑作」になることを運命づけられた、そういう"気迫"を感じる作品なんですが。
・しかしこの作品の最大の持ち味、醍醐味は、上の内容紹介で言えば"ヒューマン"の部分。
・基本一話完結で、アメリカの様々な街や都市で、キンブルとそこで束の間出会った人々との"ドラマ"が描かれるわけですけど。
・その密度と掘り下げ具合、描写の迫真性が、"連続ドラマ"の1話1話というよりは1本1本がそれぞれ"映画"という趣、本格感、本気感。
・もし暇ならばそれぞれの「話」がどの「映画」に似ているか、カタログを作りたいくらいですけど。(笑)
・逆に言うと恐らく作り方としては、基本的に「映画」の畑の人が、縁あってアメリカ映画数十年の歴史を、「TVの連続ドラマ」という形で一気にパッケージしてみようと意図した、そんな感じなんではないかと想像するんですが。
・時は1963年、「アメリカン・ニューシネマ」勃発前夜、滅びゆく"アメリカ映画"の伝統『タイムカプセル』として・・・と、書いててなんかますますこの想像が当たっている気がして来てならないんですが、誰か詳しい方いたら教えて下さい。(笑)

"アメリカ"の全て

・そうした歴史的業界的視点はとりあえずおくとして。
・この"サスペンス"作品の一話一話が持っている、過剰な(ヒューマン)「ドラマ」性、恐らく会社側はそこまで求めてはいなかったろう(笑)それ。
・それが意図している基本的な方向性、動機としては、「全て」を書こう、「アメリカ」とそこに住んでいる人々の"全て"をという、そういうものかなと。
・余りだから、一本の連続ドラマをどう上手く仕上げるかという、そういう一般的な視点で作られているものには感じない、やはり。
・むしろこの作品という"機会"を使って、よく出来た"サスペンス"という「枠」を使ってという、そういう感じ。

・では具体的にどのような「全て」が描かれているのかというと・・・
・まず「冤罪」ものであるにも関わらず、「警察」権力は特に悪くは描かれていない。
・キンブルの逮捕に執念を燃やす、宿敵ジェラード警部
逃亡者 ジェラード警部
も、多少石頭ではあってもそれはあくまで職務への忠実さによるのであって、キンブル個人に対して何か濁った感情を含んでいるわけではない。
・しかもその"職務"意識、リーガルマインドも、単に"忠実"なだけのものではなくて「悪法もまた法なり」的な割り切りを含んだ至って自覚的なもので、なかなかの人物と言えます。
・だから逆方向の証拠さえ出て来ればいつでも心強い味方になってくれそうな予感はありますし、個人としてはキンブルの人格と知性にそれなりの敬意と境遇への同情心は持っていて、彼の逃亡劇に興味本位にまとわりつく輩には、例え警察への協力者であっても手厳しい口撃を食らわします。
・総じてキンブルの行く先々で彼に気付いて追って来る警察官や刑事については、要は「仕事」をしているという、フラットな描写が常態です。

・代わりにこのドラマが主に批判の矛先を向けるのは、そうした公に"制度"化はされていない「権力」、キンブルが束の間立ち寄るその土地土地の人間関係やしがらみ、閉鎖的な共同体や"名士""有力者"による隠微な権力、あるいはそこから零れ落ちた負け犬たちが形成する小集団の、その中で更に発生する小さな「権力」、そのいやらしさいじましさ。
「こういう輩はどこにでもいる」と、同種のナレーションが別々のエピソードで二度三度。
・だから「警官」は悪く描かなくても、「保安官」という私設警察官に関しては、ネガティブな描写も多いですね。"小さな権力"を振り回す、嫌な奴率が高いというか。
・更に話をミニマムなところに落とすと、もう何の制度にも共同体にも特に属してはいないけれど、女や子供や旅行者や、例えばキンブルのような弱点を持つ人間などの手近な、まとめて「弱者」に対して、自己満足やエゴ以外に理由の無い「権力」を行使しようとする輩に対しても厳しい視線を向けて。
・それに対して逃亡犯という身分の危うさと板挟みになりながらも正義感から思わず立ち向かうキンブルの行動が、しばしばストーリーの展開の大きなきっかけになっています。
・またそのキンブルの犯した"危険"の意味に感銘を受けた人々が、時に同情を深め時に反省・変心し、重罪逃亡犯であるキンブルをさりげなく逃がそうとするその決断と工夫、それがこのシリアスで暗めの作品の、一つの"カタルシス"ポイントとなっています。

・まとめて言うと、「国」としての、公的「制度」としてのアメリカは、それなりに十分に機能している、いい国であると、そのようにこのドラマの作り手たちは考えているようです。
・キンブルの冤罪・誤審のような"誤り"は時にあるけれど、概ね諸制度は公共心に基づいて運営されているし、官民共に善良な人道理の分かる人は、随所にいる。
・しかしそういうアメリカの"表の顔"・・・それは"嘘"ということではなくてアメリカが「アメリカ」たらんとしている部分ということですが、そこから視線を下に落としてみると。
・上でいみじくも「どこにでもいる」と言われているような、陳腐で下劣でそれゆえに普遍的でもある、人間(社会)の卑しい面も、決まり事のようにあちらこちらで目にすることが出来る。
・それら全てをリチャード・キンブルという一人の人間が、逃亡犯という特殊な状況ゆえに短期間に大量多様に経験する様を見せることで、独特の「カタログ」感というか「全て」感が生じる、そういう効果のある作品だと思います。
・人間て!という。
・...何か積極的な主張がある感じでもないんですけどね。"カタログ"すること自体が目的というか。
・"映画"の件でと同様に。
・ただ「キンブル」という人物を通じて、人間の善性の力と価値をかなり力強く描いている作品ではあると思いますし、また「ジェラード警部」を代表とする警察組織の"健全"性を描くことで、「アメリカ」への信頼と希望をあくまで表明している作品でもあると思います。
・全ては"1963年"の話ではありますが。

"女"の・・・全て(?)

・もう一つどうしても外せないポイント(笑)として、『逃亡者』に登場する"女"たちの多彩さと精彩があると思います。
・これも「カタログ」と言えばカタログなんですけど。「映画」集という性格に、含まれてもいますし。
・ただそれにしてもまあ、毎回登場するほとんどはその回限りの"女"たちの存在感の、鮮やかなこと生々しいこと。
・弱い女強い女、善良な女小狡い女。多くはある種の"パターン"ではあるんですけど、それを約30種類も見せられるとそれだけでもただただ壮観ですし、また30種類もあるにも関わらず一つ一つが「典型」としての力強さを持っていることには、驚嘆させられます。
・やはり「30本の映画」だと考えるのが、分かり易いとは思いますね。
・その中で中心となっているのは、弱い立場に置かれている女への無償の同情心、賢くはなくても一途に善良な女への敬意と愛情、一方でしばしばいる善とか悪とかいうよりもただただ「立ち回る」ことだけに終始する、ずるい女への軽蔑と憎悪、しかしそういう女が自分の中の「真実」に気付く瞬間の感動、こういったものでしょうかね。
・僕も何人か、忘れられない"女"に出会えました(笑)。女優さんもみんないい。
sandy_dennis cassielee_grant millie
・それぞれ第3話健気な野生児の"キャシー"(サンディ・デニス)、第25話亡夫の兄への秘めた愛に忠実な美女"ミリー"(リー・グラント)。
・キンブルは基本的に安定のモテ男で、色目を使われても簡単にのぼせたり騙されたりはしないので、"女"だらけでもドラマとしては、結構さっぱりしています。
・その意味では逆に、"男"目線というか男優位の傾向は、無くは無いかも知れませんけどね。
・でも立派だからなあ、キンブルは。(笑)


こんな感じです。だいたい言いたいことは言えたかな?
演出、特に吹替のそれに"時代"感が無いことは無くて、"ハマる"ところまではなかなか行かなかったですけど、例えばこのスタッフがもう2,30年も後に生まれても、間違いなくそこでその時代なりの傑作大ヒット作を生み出しただろうことは確信出来る、本当に優れた作品です。
機会があれば、見てみて損は無いだろうと思います。


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Posted on 2017/08/09 Wed. 22:42 [edit]

category: 1900年代-2009年のドラマ(アメリカ)

thread: 海外ドラマ(欧米) - janre: テレビ・ラジオ

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